日常生活で「キーン」「ジー」「ピー」といった耳鳴りが続き、不安を感じたことはありませんか。
実はその耳鳴り、単なる一時的なものではなく、難聴が関係している可能性があります。耳鳴りと難聴は深く結びついており、体からのサインとして現れているケースも少なくありません。
この記事では、耳鳴りと難聴の関係性や原因となる病気、受診の目安、セルフケアなどについてご紹介します。耳鳴りや聞こえにくさが気になる方は、ぜひこの記事を読んで正しい知識を身につけ、早めの対処につなげてください。
難聴と耳鳴りの関係性

耳鳴りは単独で発生するものではなく、難聴をきっかけに脳の働きに変化が生じて起きるケースが多いです。その割合はおよそ8〜9割にのぼるとされています。
難聴によって音を十分に捉えられなくなると、その影響で脳の音の処理に変化が生じ、実際には存在しない音(=耳鳴り)を感じてしまうことがあります。
このように、難聴と耳鳴りは密接に結びついており、どちらか一方ではなく両者を関連づけて理解することが重要です。
難聴と耳鳴りが同時に発生するメカニズム
耳は外側から大きく「外耳」「中耳」「内耳」に区分され、外から入ってきた音(空気の振動)を脳に伝える精密な器官です。私たちが音を聞くときは、まず外耳や中耳で音を集め、それが内耳にある「蝸牛」へと伝わります。蝸牛では音が電気信号に変換され、その情報が聴神経を通じて脳へ届けられます。
しかし、加齢や病気など何らかの原因によってこの経路に障害が生じると、脳に届くはずの電気信号が減少してしまいます。すると脳は不足した情報を補おうとして神経活動を変化させ、実際には音が存在しないにもかかわらず、あたかも音があるかのように感じる状態が生まれます。
これが耳鳴りの正体です。高齢者などでは、自分の難聴に気づきにくいケースが多く、その結果、耳鳴りが前兆のように感じられることもあります。
加齢だけでなく病気も原因に
難聴は加齢に伴って誰にでも起こりうる現象であり、一般的には40代頃から徐々に進行するとされています。特に高い周波数の音から聞こえにくくなる傾向があり、それに対応する脳の神経活動が過剰に働くことで、「キーン」といった高音の耳鳴りを感じやすくなります。
ただし、耳鳴りの原因は加齢だけに限られるわけではありません。突発性難聴やメニエール病といった病気によって急激に聴力が低下した場合にも、同様に耳鳴りが引き起こされることがあります。
このように、耳鳴りはさまざまな要因と関係しているため、単なる加齢現象と決めつけず、必要に応じて専門的な診断を受けることが大切です。
難聴と耳鳴りが起こる病気

難聴や耳鳴りは以下の病気によって引き起こされる場合があります。
これらの病気では、中耳や内耳、聴神経などの構造に異常が生じることで、音の伝達や処理に支障が出ます。その結果として、聞こえにくさだけでなく、実際には存在しない音を感じるケースもあるのです。適切な治療や対処のためには、それぞれの病気の特徴を理解し、早期に異変に気づくことが重要です。
突発性難聴
突発性難聴は、蝸牛の中にある「有毛細胞」といった音を感知する器官が、何らかの原因によって急に障害されることで起こる病気です。多くの場合、片耳に突然難聴が現れ、前触れがほとんどないのが特徴です。
音の情報が正常に脳へ伝わらなくなると、聞こえにくさに加えて「キーン」「ザー」といった耳鳴りが伴ったり、吐き気や軽いめまいを感じたりすることもあります。発症後できるだけ早く治療を開始することが重要で、対応が遅れると聴力が十分に戻らない可能性が高くなるため注意が必要です。
メニエール病
メニエール病は、もともと内耳に存在するリンパ液が過剰に溜まることで、内耳の蝸牛や「三半規管」という器官が圧迫されて、機能障害を起こす病気です。この圧迫で音の感知や平衡感覚に異常が生じ、耳鳴りや難聴に加えて、激しい回転性のめまいが繰り返し起こるのが特徴です。発作を繰り返すうちに聴力が徐々に低下していくこともあるため、継続的な症状の管理が重要とされています。

聴神経腫瘍
聴神経腫瘍は、聴神経の周囲に発生する良性の腫瘍で、ゆっくりと大きくなるのが一般的です。腫瘍が成長するにつれて聴神経が圧迫され、片側の難聴や耳鳴りが徐々に進行します。初期には症状が軽く気づきにくい場合もありますが、左右差のある聞こえにくさや持続する耳鳴りがある場合には注意が必要です。
薬剤性難聴
薬剤性難聴は、一部の抗がん剤や抗菌薬などの副作用として発生する難聴です。治療中に聞こえの異変や耳鳴りを感じた場合には、早めに医師へ相談することが大切です。

騒音性難聴
騒音性難聴は、長期間にわたって大きな音にさらされ、有毛細胞が障害されて起こる難聴です。工事現場や騒音環境で働く人に多く見られ、「キーン」といった耳鳴りを感じる場合があります。
耳硬化症
耳硬化症は、中耳にある「アブミ骨」という小さな骨が硬くなり、動きが悪くなることで音の振動が内耳にうまく伝わらなくなる病気です。音の伝導が妨げられるため、徐々に難聴が進行し、耳鳴りが生じることもあります。比較的若い世代にも発症するケースがあり、進行すると手術による治療が検討される場合もあります。
中耳炎
中耳炎は、鼻やのどの細菌・ウイルスが耳管を通じて中耳に入り込み、炎症を引き起こす病気です。急性中耳炎では耳の痛みや発熱を伴うことが多く、その状態が続くと鼓膜の内側に液体がたまる滲出性中耳炎が起こることがあります。これらの状態では聞こえにくさの他に耳鳴りを伴うこともあり、早めの治療が必要です。
受診すべき難聴と耳鳴りの症状

難聴や耳鳴りには、早急に医療機関を受診すべきサインが含まれているケースがあります。症状の出方や進行の仕方によっては、重大な病気が隠れている可能性もあるため、自己判断で様子を見るのではなく、異変を感じた時点で医療機関に相談することが大切です。
片耳に限局する難聴と耳鳴り
片耳だけに生じる難聴や耳鳴りは、注意すべき代表的な症状の一つです。このような場合、突発性難聴や聴神経腫瘍、中耳炎などが原因として考えられます。
特に突発性難聴は、ある日突然聞こえが悪くなるのが特徴で、早期に治療を開始するかどうかが回復に大きく影響します。発症から時間が経つほど聴力が元に戻りにくくなるため、「片耳だけおかしい」と感じた時点で、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診することが重要です。

難聴が徐々に進行する耳鳴り
耳鳴りとともに聞こえが徐々に悪くなっていく場合も、放置してはいけないサインです。聴神経腫瘍や耳硬化症、外リンパろうなどでは、時間の経過とともに症状が進行していくことがあります。早い段階で診断を受けることで進行を抑え、適切な治療につなげられるため、違和感が続く場合は早めの受診が望まれます。
「ドクンドクン」という耳鳴り
心臓の鼓動に合わせるような「ドクンドクン」という拍動性の耳鳴りは、一般的な耳鳴りとは異なる特徴を持っています。このような症状は、脳腫瘍や硬膜動静脈瘻といった脳や血管の異常が関係している場合があります。なかには命に関わる重大な病気が隠れているケースもあるため、単なる耳鳴りと軽く考えるのは危険です。突然現れた場合や持続する場合には、できるだけ早く医療機関を受診し、精密検査を受けましょう。

うつ状態を伴う耳鳴り
何に対してもやる気がでない、気分がひどく落ち込む、夜が眠れないといった症状が伴っている場合は、うつ状態による耳鳴りが疑われます。精神科の治療が必要になるケースもあるため、ためらわずに医療機関へ相談しましょう。
耳鳴りのセルフケア

耳鳴りは日常生活の工夫によって、感じ方を軽減できる場合があります。完全に消すのが難しいケースでも、脳の反応や意識の向け方を整えて気になりにくくすることは可能です。無理に我慢するのではなく、心身の状態を整えながらうまく付き合っていくことが大切です。
十分な休息をとる
耳鳴りが気になるときは、まず十分な睡眠と休息を確保することが重要です。疲労や睡眠不足が続くと、自律神経のバランスが乱れ、耳鳴りが強く感じやすくなる場合があります。規則正しい生活リズムを意識し、しっかりと体を休めてリラックスさせることで、症状の安定に役立ちます。
リフレッシュする習慣を作る
日常的にストレスをため込まない工夫も大切です。深呼吸やストレッチ、ぬるめの入浴などは、心身をリラックスさせるのに効果的です。
また、趣味や好きな活動に没頭する時間を持つことで、耳鳴りへの意識が過度に集中するのを防げます。自分に合ったリフレッシュ方法を見つけ、無理なく続けることが症状の軽減につながります。

音響療法をする
音響療法は、耳鳴りそのものを消すのではなく、周囲に自然な音を取り入れることで耳鳴りを目立ちにくくする方法です。例えば、川のせせらぎや雨音、ラジオの微かなノイズ、穏やかな音楽などを流すことで、静寂によって強調されがちな耳鳴りを和らげられます。このような環境に慣れていくことで、脳が耳鳴りに過剰に反応しなくなり、徐々に気になりにくくなるとされています。
耳鳴り対策には、これら以外にも日頃から難聴を予防する意識を持つことが大切です。耳を守る生活習慣については、以下の記事も参考にしてみてください。
補聴器が有効な場合も

加齢性難聴に加え、内耳の障害によって起こる突発性難聴やメニエール病、聴神経腫瘍、騒音性難聴などでは、補聴器の使用が耳鳴りの軽減に役立つ場合があります。
補聴器は、小さな音や聞き取りにくい周波数の音を拾って増幅・調整し、鼓膜へ届ける医療機器です。聞こえを補うことで脳の過剰な反応が抑えられ、耳鳴りが気になりにくくなる場合があります。また、日常会話がしやすくなることで生活の質の向上にもつながります。
難聴や耳鳴りの症状が気になる場合は耳鼻咽喉科で検査を受け、適切な治療や、必要な場合は補聴器の検討を行うことが重要です。
まとめ:耳鳴りは難聴からのサインかも?見逃さず早めの対処を

耳鳴りと難聴は密接に関係しており、耳鳴りの多くは難聴をきっかけに脳の働きが変化することで生じるとされています。加齢による変化だけでなく、突発性難聴やメニエール病、聴神経腫瘍などさまざまな病気が原因となることもあり、症状の現れ方によっては注意が必要です。特に片耳だけの難聴や急激な聴力低下、拍動性の耳鳴りなどは重大な疾患のサインの可能性もあるため、早めに医療機関を受診することが重要になります。
一方で、耳鳴りは生活習慣の見直しや音響療法などのセルフケアによって、感じ方を軽減できる場合もあります。また、難聴を伴う場合には補聴器の使用が有効となるケースもあり、適切な対応によって生活の質の向上が期待できます。
気になる症状がある場合は自己判断せず、耳鼻咽喉科を受診して専門医の診断を受けましょう。
執筆
聞こえと暮らし研究所 編集部
聞こえや難聴に関する正しい理解を広めるとともに、補聴器をはじめとする聴覚ケアの最新情報や、快適な聞こえを支える工夫を発信しています。日々の暮らしに寄り添う情報提供を通じて、聞こえに悩む方々の生活の質(QOL)向上に貢献していきます。
監修
小島 敬史
現国立病院機構栃木医療センター耳鼻咽喉科医長。
全例で補聴器適合検査を行い、補聴器の処方についても自ら特性図・適合検査結果を確認、調整の指示を行っている。
【略歴】
2006年、慶應義塾大学医学部卒。臨床研修修了後、2008年より同大学耳鼻咽喉科学教室へ所属。日本耳鼻咽喉科学会専門医、指導医取得。耳科、聴覚を専門とし、臨床研究や基礎研究に従事する。2018年から2020年、米国ノースウェスタン大学耳鼻咽喉科頭頸部外科でポストドクトラルフェローとして先天性難聴の蛋白機能解析に関する基礎研究に従事。2013年慶應義塾大学病院耳鼻咽喉科で難聴・耳鳴外来を担当。宇都宮方式での補聴器処方を学ぶ。
