聞こえは、単に暮らしやすさを左右するだけでなく、認知症をはじめとした心身の健康とも深く関わっています。全4回の連載の第3回目は、聞こえと健康の関係から、聞こえの変化に気づいたときの向き合い方、さらに補聴器の役割まで、耳の健康に精通する「立川駅前おといろ耳鼻咽喉科」の小島敬史先生に伺いました。
聞こえの維持が支える、心身の健康とは

――聞こえを保つことは大切だと言われますが、健康や暮らしにどんな良い影響があるのでしょうか?
人間は社会的な動物であり、コミュニケーションを通して社会と関わり続けることが心身の健康にとって重要です。その第一歩となるのが「会話」です。聞こえを保つことで会話がスムーズに成り立ち、自然と外出や趣味の活動、友人との交流といった社会的な活動の機会が増えていきます。こうした活動を保つことは、生活の質を高めるだけでなく、脳に適度な刺激を与え、認知症予防にもつながると考えられています。
――聞こえを保つことは認知症予防にもつながるのですか?
そうなんです。国際的な医学誌でも「難聴は認知症のリスク因子であり、早期に介入することでアルツハイマー型認知症の発症を7%ほど減らせる可能性がある」と報告されています。ただ、難聴になったからといって直ちに認知症になるわけではありません。聞こえにくさから会話や外出が減り、孤立し、人と話す意欲が落ちていく——その負の連鎖が認知症につながる可能性があると考えられています。こうした負の連鎖を起こさないためにも、聞こえを保ち、積極的なコミュニケーションや社会参加を続けることが大切です。

――聞こえの状態は、心身の健康に深く関わっているんですね。
そうですね。聞こえが保たれていると、人との関わりや外出が続きやすくなり、孤立や気持ちの落ち込みといったメンタル面の不調を防ぎやすくなります。その結果、身体活動量の維持にもつながります。だからこそ、聞こえにくさを感じたら耳鼻科で耳の状態を確認し、必要に応じて補聴器で聞こえを補っていくことをおすすめしています。
補聴器を上手に取り入れるために知っておきたいこと

――補聴器は、何歳くらいから使い始めたらいいのでしょうか?
補聴器を使い始めるタイミングは、実は年齢では決まりません。聞こえの変化は個人差が大きいため、聞こえにくさを感じる場面が増えてきた方や、生活の中で負担を感じる方は、年齢に関係なく検討すると良いでしょう。
聞こえにくさを放置すると、聞こえを諦めてしまうことがありますし、音の刺激が少ない状態が続くと、脳が音を処理する機会も減ってしまいます。そうなると、補聴器の効果を得られにくい場合があるため、「聞きたい」「人と関わりたい」という思いがあるうちに始めることが大切です。
――「自分に合うか不安」「使い続けられるか心配」といった声も聞きますが、補聴器は、少しずつ慣れていくものなんでしょうか?
補聴器は、最初からぴったり合うものというより、使いながら調整(フィッティング)していくことで、生活に馴染ませていくものです。おおよそ3ヶ月ほどかけて、その方の聞こえ方や生活環境に合わせて音を整えていくことで、補聴器は徐々に“自分のもの”になっていきます。
補聴器による聞こえの変化は、山登りのようにゆっくりと

そして、この調整がどれだけ丁寧に行われるかで、聞こえの快適さは大きく変わります。補聴器はメガネ屋さんや家電量販店、補聴器専門店などで購入できますが、気軽に手に入る反面、調整技術や検査環境は店舗によってさまざまです。
――補聴器はどういった流れで買うのが良いのですか?
まずは「補聴器相談医」として認定された医師に相談することをおすすめします。難聴は治療で改善できる場合もあるため、まずは正確な診断と聴力検査が重要です。補聴器相談医の名簿はWebで公開されていますので、ぜひ参考にしてみてください。
聴力検査自体は補聴器販売店でも受けられますが、簡易的な検査にとどまる場合もあります。そのため、お店を選ぶ際は、防音室で正確な聴力検査ができること、調整に十分な時間をかけてくれるスタッフがいること、そして3ヶ月程度の試聴期間(無料貸し出し期間)がきちんと設けられていることがポイントです。
――補聴器を使い始めた方からは、どんな声が寄せられることが多いですか?

「もっと早く始めればよかった」「会話がラクになった」「家族が喜んでくれた」といった声は多いですね。3ヶ月程度の慣らし期間は必要ですが、丁寧に調整を受けながら使っていくことで、徐々に馴染んでいきます。
補聴器は単に聞こえを補うだけでなく、日々の不安や負担を軽くしてくれるツールでもあります。聞こえに違和感がある方は、補聴器相談医のいるクリニックに一度相談してみると、次のステップが見えやすくなりますよ。
監修
小島 敬史
立川駅前おといろ耳鼻咽喉科 院長
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会認定 補聴器相談医
補聴器適合判定医師研修会 修了
全例で補聴器適合検査を行い、補聴器の処方についても自ら特性図・適合検査結果を確認、調整の指示を行っている。
経歴
| 2006年3月 | 慶應義塾大学医学部医学科 卒業 |
| 2008年3月 | 佐野厚生総合病院 初期臨床研修修了 |
| 2008年4月 | 慶應義塾大学耳鼻咽喉科学教室所属 |
| 2013年9月 | 慶應義塾大学病院 助教として勤務 難聴/耳鳴外来と小児難聴外来を担当 |
| 2015年4月 | 町田市民病院 補聴器外来立ち上げ |
| 2018年8月 | 米国 ノースウェスタン大学耳鼻咽喉科で 遺伝性難聴の基礎研究に従事 |
| 2026年4月 | 立川駅前おといろ耳鼻咽喉科 開業 |
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