超高齢社会といわれる今、私たちの「聞こえ」をめぐる環境は大きく変わりつつあります。 難聴や聴覚障害の予防や治療がこれまで以上に大切になる一方で、補聴器もAIなどの技術によって進化し、生活の質を大きく支える存在になっています。
こうした「聞こえ」を取り巻く状況やこれからの展望について、耳の健康に精通する「立川駅前おといろ耳鼻咽喉科」の小島敬史先生にお話を伺いました。全4回のうち第1回となる今回は、「聞く」と「聴く」の違いから紐解く、暮らしにおける聞こえの重要性について語っていただきました。
聞こえにくさの裏にある、“聞く”と“聴く”の違い

――「聞く」と「聴く」の違いについて教えてください。
“聞く”と“聴く”は似ていますが、実は意味が少し異なります。“聞く”は、音が耳に入ってくる状態で、いわば音の情報をそのまま受け取っている段階を指します。一方で“聴く”は、その音に意識を向け、内容を理解しようとする過程のことです。
耳に入った音を言葉として受け取り、理解できて初めてコミュニケーションにつながっていきます。そのため、コミュニケーションは“聞く”から“聴く”へと移っていく流れで成り立っていると考えると分かりやすいと思います。
――聞こえにくい状態が続くと、「聴く力」にはどのような影響があるのでしょうか?
まず、聞こえにくくなると、“聞く力”、つまり音を捉える力が低下します。音が小さく感じたり、はっきり聞き取りにくくなったりする状態です。さらにその状態が続くと、音の刺激が減ることで、音を処理する脳の働きも徐々に低下していくことが知られています。これを“聴覚剥奪”と呼びます。
その結果、言葉の理解、つまり“聴く力”も低下してしまう可能性があります。音は聞こえているのに、何を言っているのか分かりにくい、という状態です。このように、聞こえにくさを放置していると、単に音が小さいというだけでなく、コミュニケーションにも影響が出てくる可能性が考えられます。
ふらつきや転倒のリスクも。聞こえにくさが日常生活に与える影響

――少し聞こえにくい程度でも、日常生活に影響はあるのでしょうか?
程度にもよりますが、少しくらいなら大丈夫と思っても、日常の安全面に影響することがあります。例えば、後ろから近づく車や自転車の音をはじめ、ドアの開閉音、警報やインターホンなど、私たちは音から多くの情報を得ています。これが聞こえにくい状態になると、危険に気づくのが遅れる可能性があります。また、聴力の低下と死亡率の上昇には関連が指摘されており、ふらつきや転倒のリスクも増えるとされています。音は単なる情報ではなく、日常の動作や危険の感知にも欠かせません。聞こえにくさを感じたら、早めに耳鼻科を受診することが大切です。
――聞こえにくくなると、家族や友人との会話にどんな影響が出るのでしょうか?
聞こえにくい状態が続くと、相手の言葉を聞き返す回数が増えたり、聞き間違いで会話が噛み合わなくなったりして、だんだん会話自体が億劫に感じる可能性があります。こういった状況が続くと、家族や友人との雑談や電話でのやり取りも面倒になり、コミュニケーション自体を避けてしまうことも…。こうして次第に孤独感が強まり、抑うつ傾向が強まることもあります。

――聞こえにくさは、日々の楽しみや趣味などにも影響しそうですね。
そうなんです。好きだったドラマが楽しめなくなったり、友人との会話についていけなくなったりすることもあり、趣味や何気ない日常の楽しみに気持ちが向きにくくなることがあります。そうなると、ますます孤独感が強くなってしまいますよね。こうした一連の流れは、認知症発症のリスクを高めるという指摘もあるので、聞こえの変化を「年を重ねればこんなもの」「少しくらいなら大丈夫」と放置することは望ましくありません。
「年齢のせい」とあきらめず、早めの相談を

――加齢で徐々に聞こえにくくなる場合、自分で気づくことはできるのでしょうか?
聞こえにくさに気づくかどうかは、本人のコミュニケーションへの意欲にも左右されます。会話を大事にしている人や、家族や友人とのやり取りに積極的な人は、比較的早く変化に気づける傾向にあります。
ただ、加齢による難聴は非常にゆっくり進むため、本人も徐々に慣れてしまい、「聞こえにくいのが当たり前」と思ってしまうことが少なくありません。また、家族や周囲も「年を取ると大きな声で話さないと会話が成り立たない」と思い込みがちですが、私から見ると、その状態は、「中等度難聴」に相当します。
少しでも「聞こえにくい」と感じたら、迷わず耳鼻科で相談してみてください。また、ご家族が変化に気づいた場合も、受診を促してあげることが大切です。早めのチェックが、日常の安心や快適な会話の維持につながっていきます。
監修
小島 敬史
立川駅前おといろ耳鼻咽喉科 院長
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会認定 補聴器相談医
補聴器適合判定医師研修会 修了
全例で補聴器適合検査を行い、補聴器の処方についても自ら特性図・適合検査結果を確認、調整の指示を行っている。
経歴
| 2006年3月 | 慶應義塾大学医学部医学科 卒業 |
| 2008年3月 | 佐野厚生総合病院 初期臨床研修修了 |
| 2008年4月 | 慶應義塾大学耳鼻咽喉科学教室所属 |
| 2013年9月 | 慶應義塾大学病院 助教として勤務 難聴/耳鳴外来と小児難聴外来を担当 |
| 2015年4月 | 町田市民病院 補聴器外来立ち上げ |
| 2018年8月 | 米国 ノースウェスタン大学耳鼻咽喉科で 遺伝性難聴の基礎研究に従事 |
| 2026年4月 | 立川駅前おといろ耳鼻咽喉科 開業 |
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