「テレビの音量が大きくなった」「聞き返すことが増えた」というサインは、難聴を疑う典型例として知られています。一方で、転倒や気分の落ち込みなど、一見耳とは関係なさそうな不調の背景にも、難聴が隠れているケースがあるのです。
この記事では、難聴と関係のある意外な不調、難聴のリスクとなりうる要因、セルフチェックリストを紹介します。耳の聞こえに関して違和感がある方は、ぜひ最後までご覧ください。
難聴と関係のある不調

耳は音を聞くだけの器官ではなく、バランス感覚や脳の働きとも深く関係しています。そのため、聴力の低下は、耳以外のさまざまな不調として現れることがあります。ここでは、難聴と関係があると指摘されている5つの不調を紹介します。
転倒やふらつきが増える
転倒やふらつきが増える背景には、難聴が関わっている可能性が指摘されています。体のバランスを司る三半規管の能力とは別に、音自体が平衡感覚を保つために必要な情報となっているのではないかと考えられています。
ある研究では、聴力が10dB低下するごとに転倒リスクが約1.4倍高まるとされています※1。さらに、聞き取りに脳の注意が向くことで、足元への意識が薄れやすくなることも転倒増加の一因と指摘されています。
※1 Hearing Loss and Falls Among Older Adults in the United States
気分が落ち込みやすくなる
聴力が低下すると、気分が落ち込みやすくなると言われています。これは、会話が聞き取りづらくなることで、人と話すことを諦めたり、集まりに参加しなくなったりすることが増え、徐々に社会との関わりが少なくなるためです。
また、孤立感が積み重なることで、抑うつ傾向も強まる可能性があります。「最近元気がない」と家族に言われたり、外出する頻度が減ったりするなどの変化も、聞こえの低下と関係している場合があります。

注意力や記憶力が低下する
聴力の低下に伴い、物忘れが増えたり、集中力が低下したりするとされています。聞き取る作業には、思っている以上に多くの注意力や記憶力など、脳のエネルギーが必要です。難聴がある場合、会話を聞き取るために必要な脳のリソースは、さらに大きくなります。
音を言葉として理解するために脳のリソースを使うと、その分だけ、記憶や集中に回せる余力がなくなります。「年のせいで物覚えが悪くなった」と感じている方の中には、実は聞こえの低下が一因になっているケースもあるかもしれません。
会話のあとに疲労を感じやすくなる
会話のあとの強い疲労感も、難聴のサインとして現れやすい不調の一つです。難聴になると、音を聞き取って意味を理解するために、より多くの脳のエネルギーを使います。
特に次のような場面では、負担が蓄積しやすく、強い疲労を感じやすいでしょう。
- 雑音のある場所での会話
- 複数人での会話
- 長時間の打ち合わせ
周囲の人より早く疲れを感じる、または会話が多い日のあとにぐったりする日が続く場合は、聞こえが原因の一つである可能性も考えられます。

難聴のリスクになりうる主な要因

難聴は、誰にでも起こる可能性がある身近な健康リスクの一つです。発症を防ぐには、主なリスク要因を理解し、適切な対策をとることが大切です。ここでは、難聴につながる代表的な5つの要因を紹介します。
加齢
加齢とともに聴力は徐々に低下します。主な理由は、内耳にある有毛細胞(音の振動を電気信号に変換する細胞)や聴神経、そして聴覚をつかさどる脳の機能が年齢とともに衰えていくためです。
一般的には、40代から聴覚の衰えが始まり、75歳以上では約半数が耳の不調を感じているとされています。
ほとんどの場合で「感音難聴」と呼ばれるもので、音の伝わる経路に異常はないものの、音を感じ取る有毛細胞や神経が加齢によって機能を失うことで発生します。進行はゆるやかで、本人が自覚しにくい点が特徴です。
騒音環境
大きな音にさらされ続ける環境も、難聴のリスクを高める要因の一つです。強い音は内耳の有毛細胞にダメージを与え、一度傷ついた有毛細胞は元の状態に戻りにくいとされています。
例えば、工場や建設現場、音楽関係の業務など、日常的に大きな音を浴び続ける環境での仕事は代表的なリスクです。これらのケースで生じる難聴を「騒音性難聴」と呼び、長期的な暴露によってじわじわと聴力が低下していきます。
なお、イヤホンやヘッドホンの長時間使用や大音量でのテレビ視聴、ライブやコンサートの大音響も難聴のリスクを高めます。日常生活においても、大きな音には注意しましょう。
生活習慣
日々の生活習慣は、耳の健康にも大きく影響します。内耳には細かい血管が数多く張り巡らされており、酸素や栄養はこの血管を通じて届けられる仕組みです。そのため、生活習慣の乱れで全身の血流や代謝が悪化すると、内耳への栄養供給が滞り、聴覚機能にも影響が出やすくなります。
例えば喫煙は、血流を悪くし、内耳に酸素や栄養が行き届きにくくするため、難聴のリスクが高まる要因の一つです。また、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病も、内耳の細い血管に悪い影響をおよぼし、加齢性の難聴が進む原因になったり、突発性難聴のリスクを高めたりします。
健康的な食事や適度な運動、十分な睡眠など、毎日の生活習慣は耳の聞こえを守るためにも大切です。

耳の病気
耳の病気も、難聴を引き起こす主な原因の一つです。特に、以下のような耳の疾患が難聴と密接に関係しています。
| 中耳炎 | 中耳の炎症によって鼓膜や耳小骨の動きが妨げられる。 慢性化すると感音難聴を併発する場合がある。 |
| 突発性難聴 | ある日突然、片耳または両耳の聞こえが悪くなる耳の病気。 早期治療を始めないと聴力が戻らない可能性がある。 |
| メニエール病 | 内耳にリンパ液が溜まり、 難聴・耳鳴り・回転性のめまいの発作を繰り返す。 ストレスや過労が引き金になるケースもある。 |
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耳の病気による難聴は、早期発見と適切な対応によって回復や悪化防止につながります。気になる症状があれば早めに耳鼻咽喉科に相談しましょう。
遺伝
難聴の中には、遺伝子の変化によって生じるものもあります。遺伝性難聴と聞くと「家系に同じ症状の人がいるはず」と思われがちですが、実際には血縁者に同じ難聴の人が一人もいないケースが多いとされています。
ある調査によると、生まれつきの難聴(先天性難聴)は1,000人に1〜2人の割合で発生し、そのうち半数以上は遺伝性難聴であるそうです※2。
また、生まれたときには症状がなくても、思春期や大人になってから発症し、徐々に聞こえにくくなる遺伝性難聴もあります。

難聴のセルフチェックリスト

聞こえに不安を感じている方は、以下の項目でセルフチェックをしてみてください。
- 会話をしているときに、聞き返すことがよくある
- 集会や会議など数人での会話がうまく聞き取れない
- 聞き間違いが多い
- 話し声が大きいと言われる
- 相手の言ったことを推測で判断することがある
- 後ろから呼びかけられると気づかないことがある
- 車の接近にまったく気づかないことがある
- テレビやラジオの音量が大きいとよく言われる
- 電子レンジの音やドアのチャイムの音が聞こえにくい
これらの項目のうち、一つでも当てはまる場合は、耳鼻咽喉科への相談を検討しましょう。
耳の不調をそのままにしておくと、日常生活のコミュニケーションや安全面で支障が出ることもあります。早めに状態を知って対処することで、万が一異常が見つかった場合でも、その後の選択肢が広がります。
耳の不調を防ぐための対策

難聴は加齢や遺伝などコントロールできない要因もあります。しかし、日常生活の工夫で耳への負担を減らし、聞こえの低下をゆるやかにすることも可能です。ここでは、耳の不調を防ぐために見直したい3つのポイントを紹介します。
騒音環境を避ける
耳の健康を守るためには、まず大きな音にさらされないようにしましょう。大きな音は内耳にある有毛細胞を傷つけます。一度傷つくと、その細胞は元の状態に戻りにくいとされているため、十分な注意が必要です。
日常生活では、テレビや音楽の音量を見直してみましょう。また、イヤホンやヘッドホンを長時間使い続けると耳に負担がかかるため、連続して使うのは1時間程度を目安にし、こまめに休憩を取るのがおすすめです。
工事現場やライブ会場、コンサートなど、大きな音が響く場所では、耳栓やイヤーマフを使って耳を保護すると効果的です。
生活習慣を見直す
全身の健康は、耳の健康とも深く関係しています。生活習慣を整えることで、耳の健康を保つことにつながります。具体的には、次のような習慣を意識しましょう。
- バランスのよい食事を摂る
- 適度な運動をする
- 十分な睡眠や休養時間を確保する
- 禁煙する
すでに高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病がある場合は、それらをきちんと管理しましょう。
定期的に耳鼻咽喉科を受診する
定期的に耳鼻咽喉科を受診することは、耳の不調を早く見つけるために大切です。
聴力は多くの場合、ゆっくりと低下するため、自分では変化に気づきにくいことがあります。医療機関で適切な検査を受けることで、自分の耳の状態を客観的に把握することが可能です。
聴力の状態によっては、薬物療法や手術で改善が見込めるケースもあれば、補聴器の活用が選択肢になるケースもあります。もし自分で聞こえにくさを感じたり、家族から指摘されたりしている場合は、早めに耳鼻咽喉科に相談しましょう。

注意すべき耳のサイン

耳や聴覚に関する症状の中には、早めの対応が必要な危険なサインがあります。次のような症状が見られた場合は、速やかに耳鼻咽喉科を受診してください。
- 片耳だけ急に聞こえにくくなった
- 強いめまいや吐き気を伴う聞こえの低下
- 耳鳴りが急に強くなった、頭痛を伴う
- 耳の痛みや耳だれを伴う
- 大きな音を浴びた直後の聞こえの低下
これらの症状には、突発性難聴やメニエール病、音響外傷といった病気が隠れている可能性があります。治療を始めるタイミングが、その後の回復に大きく影響することもあります。自己判断や経過観察をせず、早めに医療機関に相談しましょう。
難聴を放置するリスク

難聴を放置すると、生活のさまざまな面に深刻な影響が及ぶおそれがあるため、注意が必要です。具体的には、次のようなリスクが指摘されています。
- 認知機能の低下
- 転倒・骨折のリスク増加
- 社会的孤立とQOL(生活の質)の低下
- 家族関係への悪影響
例えば、難聴のある人は、難聴のない人と比べて認知症を発症するリスクが約1.9倍になることが研究で明らかになっています。また、聞き取りにくさが原因で会話や外出を避けるようになると、社会的な孤立感や家族とのコミュニケーション不足にもつながりやすくなります。
このようなリスクを減らすためにも、自分や身近な人の聞こえの状態を早めに把握し、適切なケアを始めることが大切です。
まとめ:気になるサインがあれば、耳鼻咽喉科に相談を

難聴のサインには、「聞き返しが増える」「テレビの音量が上がる」といったわかりやすいものだけでなく、次のような思いがけない症状が現れることもあります。
- 転倒やふらつき
- 気分の落ち込み
- 注意力や記憶力の低下
- 会話のあとの強い疲労
難聴を引き起こす原因は一人ひとり異なります。加齢に限らず、騒音や生活習慣、耳の病気など、さまざまな要因が関係する場合も多いです。一般的に聞こえの低下はゆっくりと進むため、本人が変化に気づきにくい場合も少なくありません。
耳の健康を保つには、普段から周囲の音量や生活習慣を見直し、定期的に聴力の検査を受けることが大切です。もし体調や聞こえに違和感を覚えた場合は、耳鼻咽喉科に相談しましょう。
監修
小島 敬史
現国立病院機構栃木医療センター耳鼻咽喉科医長。
全例で補聴器適合検査を行い、補聴器の処方についても自ら特性図・適合検査結果を確認、調整の指示を行っている。
【略歴】
2006年、慶應義塾大学医学部卒。臨床研修修了後、2008年より同大学耳鼻咽喉科学教室へ所属。日本耳鼻咽喉科学会専門医、指導医取得。耳科、聴覚を専門とし、臨床研究や基礎研究に従事する。2018年から2020年、米国ノースウェスタン大学耳鼻咽喉科頭頸部外科でポストドクトラルフェローとして先天性難聴の蛋白機能解析に関する基礎研究に従事。2013年慶應義塾大学病院耳鼻咽喉科で難聴・耳鳴外来を担当。宇都宮方式での補聴器処方を学ぶ。
江崎 優
聞こえと暮らし研究所 所長。認定補聴器技能者。
大手補聴器メーカーで長年、全国の販売店延べ数百店舗の技術指導・接客サポート・調整サポートに従事。現在はフジ医療器(補聴器事業部)に所属。メーカー・販売店の両視点を持つ「作る側と売る側、両方を知る専門家」。
その経験から、消費者が信頼できる情報源の必要性を感じ、当研究所を創設。全国での講演実績多数。
執筆
聞こえと暮らし研究所 編集部
聞こえや難聴に関する正しい理解を広めるとともに、補聴器をはじめとする聴覚ケアの最新情報や、快適な聞こえを支える工夫を発信しています。日々の暮らしに寄り添う情報提供を通じて、聞こえに悩む方々の生活の質(QOL)向上に貢献していきます。