補聴器の購入には、さまざまな公的支援制度が用意されていることをご存じでしょうか。障害者手帳をお持ちの方向けの補装具※1費支給制度をはじめ、医療費控除、自治独自の助成制度など、条件に当てはまれば費用負担を大幅に軽減できる仕組みがあります。
ただし、それぞれの制度には対象者や申請方法、支給額などが異なります。また、制度によっては事前の申請が必要だったり、指定された補聴器販売店での購入が条件となる場合もあります。制度の内容を正しく理解していないと、せっかくの支援を受けられないこともあるのです。
本記事では、補聴器購入に利用できる主な公的支援制度について、それぞれの概要や対象者、注意点などを詳しく解説します。あなたに合った支援制度を見つけて、経済的な負担を軽減しながら、より良い聞こえを手に入れる手助けとなれば幸いです。
※1……補装具:身体の失われた部分や障害のある部分を補う用具。補聴器、車椅子、義肢などが該当する
目次
1.支援制度① 障害者総合支援法による補装具費支給制度

補装具費支給制度の概要
障害者総合支援法に基づく補装具費支給制度は、身体障害者手帳を持つ聴覚障害者の方を対象に、補聴器の購入費用を公費で支給する制度です。この制度を利用すると、原則として基準額※2の1割の自己負担で補聴器を購入することができます。
基準額は補聴器の種類(耳かけ型、耳あな型、ポケット型など)や重度難聴用などの機能によって、異なります。例えば、重度難聴用耳かけ型補聴器の場合、71,200円。この基準額に、さまざまな加算を加えたうえで、支給される金額が決まります。
(2025年11月時点)。
※2……基準額:国が定めた補装具の購入に必要な標準的な費用
※3……補装具の種目、購入等に要する費用の額の算定等に関する基準(2025年3月31日改正)
【スマホで閲覧の場合、表を横に動かせます】
| 名称 | 定義 | 付属品 | 基準価格 |
| 難聴用 ポケット型 |
次のいずれかを満たすもの。
1. JIS C 5512-2000による。 |
・電池 ・イヤモールド |
44,000円 |
| 高度難聴用 耳かけ型 |
46,400円 | ||
| 重度難聴用 ポケット型 |
次のいずれかを満たすもの。
1. JIS C 5512-2000による。 |
59,000円 | |
| 重度難聴用 耳かけ型 |
71,200円 | ||
| 耳あな型 (レディメイド) |
高度難聴用ポケット型及び高度難聴用耳かけ型に準ずる。 ただし、オーダーメイドの出力制限装置は内蔵型を含むこと。 |
92,000円 | |
| 耳あな型 (オーダーメイド) |
・電池 | 144,900円 | |
| 骨導式 ポケット型 |
IEC 60118-9(1985)による。 90デシベル最大フォースレベルの表示値が110デシベル以上のもの。 |
・電池 ・骨導レシーバー ・イヤモールド |
74,100円 |
| 骨導式 眼鏡型 |
・電池 ・平面レンズ |
126,900円 |
[備考]
上限価格は電池、骨導レシーバー又はヘッドバンドを含むものであること。ただし、電池については補聴器購入時のみの付属品であり、修理による支給は認められないこと。 身体の障害の状況により、イヤモールドを必要とする場合は、修理基準の表に掲げる交換の額の範囲内で必要な額を加算すること。 ダンパー入りフックとした場合は、250円増しとすること。 骨導式眼鏡型で平面レンズを必要とする場合は、修理基準の表に掲げる交換の額の範囲内で必要な額を、また、矯正用レンズ又は遮光矯正用レンズを必要とする場合は、眼鏡の修理基準の表に掲げる交換の額の範囲内で必要な額を加算すること。 耳かけ型で補聴援助システムを必要とする場合は、受信機及びワイヤレスマイクの価格の合計が232,700円の範囲内でそれぞれ必要な額を加算すること。オーディオシューを必要とする場合は、5,250円の範囲内で必要な額を加算すること。 デジタル式補聴器で、補聴器の装用に関し専門的な知識・技能を有する者による調整が必要な場合は、2,000円を加算すること。
補装具費支給制度の窓口
補装具費支給制度を利用する際には、お住まいの市区町村の障害保健福祉窓口で支給申請を行ないます。
申請から支給決定まで約1~2カ月を要し、申請者には支給決定通知書と受給者証が送付されます。作成されたサービス等利用計画に従って、利用を開始しましょう。
補装具費支給制度の対象者
この制度を利用できるのは、聴覚障害で身体障害者手帳を交付されている方です。身体障害者障害程度等級表では、聴覚障害を2級、3級、4級、6級に分類しており、それぞれ以下のような基準が定められています。
- 2級:両耳の聴力レベルがそれぞれ100デシベル以上(両耳全ろう)
- 3級:両耳の聴力レベルが90デシベル以上(耳介に接しなければ大声語を理解し得ない)
- 4級:両耳の聴力レベルが80デシベル以上、または両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50パーセント以下
- 6級:両耳の聴力レベルが70デシベル以上、または一側耳が90デシベル以上で他側耳が50デシベル以上
これらの等級に該当する難聴の方が、補装具費支給制度の対象となります。必要に応じて、居住地の市区町村の障害保健福祉窓口で相談してみましょう。
補装具費支給制度利用の流れ
補装具費支給制度を利用する際の、一般的な手続きの流れは以下の通りです。
身体障害者手帳をお持ちでない方は、まず、そちらの発行手続きを行うことをオススメします。
●「身体障害者手帳」取得の流れ

- お住まいの市区町村の障害保健福祉窓口で相談し、「身体障害者診断書・意見書」を受け取る
- 指定された耳鼻咽喉科判定医※4の診察・検査を受け、診断書を作成してもらう
- 診断書と申請書など所定の書類を福祉課窓口に提出する
- 申請が承認されると、障害の程度に応じた等級の身体障害者手帳が交付される
身体障害者手帳が手元にある方は、次のような流れで手続きを行うことになります。
●「補装具費支給制度」を利用した補聴器購入の流れ

- お住まいの市区町村の障害保健福祉窓口で「補装具費支給意見書」を受け取る
- 指定された耳鼻咽喉科判定医に意見書を作成してもらう
- 障害者総合支援法対応の補聴器販売店で「見積書」を作成してもらう
- 申請書、意見書、見積書を身体障害者手帳とともに福祉課窓口へ提出する
- 審査後、「補装具費支給券」が交付される
- 支給券と印鑑を補聴器販売店に持参し、自己負担分の費用を支払って補聴器を購入する
補装具費支給制度の手続きには、1〜2カ月程度かかることが一般的です。自治体によって手続きの詳細が異なる場合があるので、事前に障害保健福祉窓口で確認することをオススメします。
※4……耳鼻咽喉科判定医:身体障害者手帳の診断書を作成できる、都道府県知事が指定した医師
補装具費支給制度利用にあたっての注意点
補装具費支給制度を利用する際には、以下の点に注意が必要です。
●購入前に必ず申請が必要となる
「補装具費支給券」が交される前に補聴器を購入してしまうと、制度の対象外となります。必ず事前に申請を済ませてから購入しましょう。
●指定された販売店で購入する必要がある
市区町村が指定する補装具製作・販売事業者から購入する必要があります。
●基準価格を超える場合は差額が自己負担となる
基準価格を超えた分は全額自己負担となります。
●耐用年数の制限がある
補聴器の耐用年数は5年と定められており、原則として5年間は再度の支給を受けることができません。ただし、故障などやむを得ない事情がある場合は例外が認められることもあります。