[4]補聴器を購入する前には、必ず試聴しよう!

補聴器は「電化製品」のように、購入してすぐに誰でも同じように使えるものではありません。実際には、使う人の「聞こえの状態」「生活環境」「好み」「装用時の感覚」など、多くの要素が絡み合う、非常に個別性の高い「医療機器」です。そのため、購入前の試聴が重要となります。

しかし、「試聴って何をすればいいの?」「どこで試聴できるの?」「どのくらいの期間試せばいいの?」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。また、試聴したけれど効果がよくわからなかったという経験をされた方もいらっしゃるかもしれません。

本記事では、補聴器の試聴がなぜ重要なのか、どこで試聴できるのか、試聴時に確認すべきポイント、試聴を最大限に活用するための注意点について、詳しく解説いたします。これから補聴器の購入を検討されている方、またはご家族の補聴器選びをサポートされる方にとって、お役に立つ内容となっています。

1.なぜ補聴器の購入において試聴が重要なのか?

補聴器は「聞こえ」だけでなく「快適さ」も大切

補聴器を選ぶ際、多くの方が最も気にされるのは「どれだけ聞こえが改善するか」という点です。もちろん、これは最も重要な要素の一つですが、それだけではありません。

補聴器は毎日、長時間にわたって装用するもの。そのため、「装着感」「操作のしやすさ」「見た目」「音質の自然さ」など、さまざまな要素が総合的に満足できるものでなければ、継続して使い続けることが難しくなります。

例えば、いくら聞こえが改善しても、長時間装用すると耳が痛くなったり、操作が複雑で扱いづらかったりすれば、次第に使わなくなってしまう可能性が高くなります。このような事態を避けるためにも、実際に使ってみて総合的に判断することが不可欠なのです。

一人ひとりの聞こえ方は異なる

難聴の程度や種類は、人によって大きく異なります。また、同じ聴力レベルであっても、どのような音が聞き取りにくいか、どのような環境で困るかは個人差があります。さらに、耳の形や大きさ、皮膚の状態なども人それぞれです。

カタログや説明書だけでは、その補聴器が自分に合っているかどうかを判断することは困難です。実際に装用して、ご自身の耳で確かめることで初めて、その補聴器が自分に適しているかどうかがわかるのです。

また購入後も、定期的な調整やメンテナンス、聴力の変化に応じた再調整など、継続的なサポートを受けることで、快適な聞こえを維持することが可能となります。

慣れるまでに時間がかかる場合もある

補聴器は装着した瞬間から完璧に聞こえるようになる「魔法の道具」ではありません。特に初めて補聴器を使う方の場合、脳が補聴器を通した音に慣れるまでに、ある程度の時間が必要です。店頭での短時間の試用だけでは、本当の効果を実感できないこともあります。

そうした問題を解決するには、実際の生活環境でしばらく試聴することが重要。補聴器の真の効果や自分との相性などを確認することができます。まとまった試聴期間があると、焦らずじっくりと判断できるというメリットもあります。

2.補聴器の試聴ができる場所と方法

補聴器専門店

補聴器専門店では、認定補聴器技能者※1などの専門スタッフによる丁寧なサポートを受けながら試聴することができます。まず、聴力測定を行い、あなたの聞こえの状態を正確に把握。そのうえで、聞こえの程度やライフスタイルなどに合わせて、オススメの補聴器を提案してもらえます。

多くの専門店では、店内での試聴だけでなく、実際に自宅に持ち帰って日常生活の中で試用できる「レンタル試聴」サービスを提供しています。試聴期間は店舗によって異なるので、店舗に直接お問い合わせください。

※1……認定補聴器技能者:公益財団法人テクノエイド協会が認定する、補聴器に関する専門的な知識と技能を持つ資格者

眼鏡店の補聴器コーナーなど

眼鏡店の補聴器コーナーなどでも、試聴サービスを行っているところが少なくありません。ただし、店舗によっては専門家が常駐していなかったり、細かなサポートが受けられないことがあるので、注意が必要です。

訪問サービス

補聴器の専門スタッフが直接ご自宅や介護施設などを訪問してくれる訪問サービスでも、丁寧なサポートを受けながら試聴することができます。まず、聴力測定を行い、あなたの聞こえの状態を正確に把握。そのうえで、聞こえの程度やライフスタイルなどに合わせて、オススメの補聴器を提案してもらえます。

実際の生活の場で試聴ができることが最大のメリットで、自宅リビングやテレビの音、家族との会話など、生活環境に合わせた「実際の聞こえ」を確認することができます。

多くの訪問サービスでは、ある程度の期間、ゆっくりと試聴できる「レンタル試聴」サービスを提供しています。試聴期間は店舗によって異なるので、訪問サービスを行っている事業者に直接お問い合わせください。

補聴器取り扱いのある耳鼻咽喉科

補聴器を取り扱っている耳鼻咽喉科クリニックでも試聴できる場合があります。医師による診察と聴力検査の後、医学的な観点からも適切な補聴器を提案してもらえるというメリットがあります。

特に、難聴の原因が治療可能な疾患による場合もあるので、まだ耳鼻咽喉科を受診していない方は、補聴器の購入前に一度受診されることをオススメします。医療機関での試聴では、より医療的な視点からのアドバイスを受けられる点が特徴です。

試聴の流れ

  1. インターネットや電話などで試聴を希望する日時を予約する
  2. 聴力測定、問診(聞こえの困りごと、ライフスタイル、予算など)、補聴器の選定、調整、装用方法の説明などを受ける
  3. 試聴を行う
  4. 可能な場合は、レンタル試聴サービスを利用して、一定期間、自宅など生活の場で試聴する

店舗の場合、予約なしでも試聴できる場合も多いのですが、専門スタッフに十分な時間をかけて相談に乗ってもらうためには、事前予約がオススメです。

3.試聴期間中に確認すべきポイント

音質と聞こえの質を評価する

補聴器から聞こえる音が自然で快適かどうかを確認します。以下のような点に注目してください。

  • 会話の声が明瞭に聞き取れるか
  • 音が機械的でなく、自然に感じられるか
  • 特定の音(皿の音、ドアの開閉音など)が不快に大きく聞こえないか
  • 自分の声が自然に聞こえるか(こもって聞こえないか)
  • ハウリング※2が起こらないか

※2……ハウリング(音響フィードバック):マイクとスピーカーの間で音が循環して発生する「ピー」という音

操作性を確認する

日常的に使用する上で、操作が簡単にできるかどうかも重要なポイントです。以下のような点を確認しましょう。

  • 電源のオン・オフが簡単にできるか
  • 音量調整がしやすいか(必要な場合)
  • プログラムの切り替えが理解しやすいか(複数プログラムがある場合)
  • 電池交換が自分でできるか(電池式の場合)
  • 充電が簡単にできるか(充電式の場合)

特に手先の細かい作業が苦手な方は、ボタンの大きさや操作のシンプルさを重視しましょう。

装着感と快適性を確認する

長時間装用しても痛みや違和感がないかを確認しましょう。特に、以下の点には注意してください。

  • 耳や耳の穴に痛みや圧迫感がないか
  • 長時間装用しても疲れないか
  • 汗をかいたときに不快感がないか
  • メガネやマスクとの併用に問題がないか
  • 装着・取り外しがスムーズにできるか

初めは少し違和感があっても、数日で慣れる場合もあります。しかし、痛みが続く場合は、形状やサイズが合っていない可能性がありますので、遠慮せず店舗や訪問サービスの担当者に相談しましょう。

さまざまな環境で試してみる

補聴器の効果を正しく評価するためには、できるだけ多様な環境で試してみることが重要です。静かな自宅だけでなく、以下のような場面で実際に使ってみましょう。

  • 静かな室内での会話:家族との一対一の会話がスムーズにできるか
  • テレビや音楽の視聴:適切な音量で快適に楽しめるか
  • 騒がしい場所:スーパーマーケット、レストラン、駅など人が多い場所での聞き取りやすさ
  • 屋外:風の音が気にならないか、自動車などの交通音があっても会話ができるか
  • 電話での会話:固定電話やスマートフォンでの通話が問題なくできるか
  • 複数人での会話:家族や友人との食事会など、複数人が同時に話す場面で問題がないか

各環境で試した結果については、都度、メモしておくことをオススメします。

電池の持続時間を確認する

充電式の場合は、一度の充電でどのくらいの時間使用できるか、充電時間はどのくらいかを確認しましょう。

電池式の場合、実際にどのくらいの頻度で電池交換が必要になるかを確認しましょう。使用時間や環境によって異なりますが、一般的な目安を把握しておくことで、ランニングコストの計算にも役立ちます。ただし、最近の補聴器には連続で数百時間利用できるものもあり、試聴期間のうちに電池交換を行う必要が無い場合もあります。

4.試聴時の注意点~効果を実感するために

「完璧な聞こえ」をすぐに期待しない

補聴器を初めて装用する方が最も陥りやすいのが、「すぐに完璧に聞こえるようになる」という期待を持ちすぎることです。しかし実際には、補聴器に慣れるまでには時間がかかります。

長年にわたって難聴の状態が続いていた場合、脳はその聞こえに適応しています。補聴器を装用すると、今まで聞こえていなかった音が聞こえるようになるため、最初は「音が多すぎる」「うるさい」と感じることもあります。これは異常なことではなく、脳が新しい聞こえに適応していく過程で起こる自然な反応です。

通常、数日から数週間かけて徐々に慣れていくので、焦らず根気よく使い続けることが大切です。

毎日、一定時間以上装用する

試聴期間中は、できるだけ毎日、一定時間以上装用するようにしましょう。「特別なときだけ使う」という使い方では、補聴器の真の効果を実感することは難しくなります。

最初は1日数時間から始めて、徐々に装用時間を延ばしていくことをオススメします。可能であれば、起きている間はずっと装用するのが理想的です。継続的に使用することで、脳が補聴器を通した音に慣れ、聞き取り能力が向上していきます。

試聴記録をつける

試聴期間中の体験を記録しておくと、後で振り返る際にとても役立ちます。以下のような項目を日記のようにメモしておきましょう。

  • 日付と装用時間
  • どのような場面で使用したか
  • 聞こえ方の評価(良かった点、気になった点)
  • 装着感や快適性
  • 困ったことやわからなかったこと
  • 家族や友人からのフィードバック

こうした記録をもとに、店舗や訪問サービスの担当者に相談すれば、より適切な調整やアドバイスを受けることができます。

まとめ:満足のいく補聴器選びのために

補聴器は、難聴による日常生活の不便さを改善し、コミュニケーションを豊かにしてくれる大切な道具です。しかし、その効果を最大限に引き出し、長く快適に使い続けるためには、購入前の「試聴」が欠かせません。

試聴では、カタログや説明書だけではわからない「実際の使い心地」を確認することができます。さまざまな環境で実際に使ってみることで、その補聴器が本当に自分に合っているかどうかを判断できます。

試聴期間中、疑問や不安があれば、遠慮なく店舗や訪問サービスの担当者に相談しましょう。その際の対応自体が、これから先長い付き合いをしていけるかどうかを見極めるためのポイントにもなります。

試聴を通して満足な補聴器選びができれば、新しい聞こえの世界が、あなたを待っています。

執筆

聞こえと暮らし研究所 編集部

聞こえや難聴に関する正しい理解を広めるとともに、補聴器をはじめとする聴覚ケアの最新情報や、快適な聞こえを支える工夫を発信しています。日々の暮らしに寄り添う情報提供を通じて、聞こえに悩む方々の生活の質(QOL)向上に貢献していきます。

執筆協力

横井 孝治

介護アドバイザー。All About【介護】ガイド。
長期にわたる両親の介護を通して身につけた有益な介護情報を発信・共有するため、2006年に株式会社コミュニケーターを設立。2007年に介護家族や介護予備軍向けの情報サイト「親ケア.com」をオープン。800回を超える講演活動のほか、各種メディアにも数多く登場。YouTube「親ケア.com【公式】チャンネル」は、登録者数2.9万人以上。

一覧へ戻る

目次