現在の補聴器市場には、さまざまなタイプの補聴器が存在しています。技術の進歩により、従来の「大きくて目立つ」というイメージとは大きく異なり、小型で高性能な補聴器が数多く開発されています。しかし、選択肢が多いということは、同時に「どれを選べば良いのかわからない」という新たな悩みを生むことにもなります。
補聴器選びで最も重要なのは、ご自身の聞こえの程度、ライフスタイル、好みに合ったものを見つけることです。価格や見た目だけでなく、日常生活でどのような場面で使用するのか、どの程度の聞こえの改善を期待するのかを明確にすることが、適切な補聴器選びの第一歩となります。
本記事では、現在市場で主流となっている補聴器の種類を、装用方法、技術レベル、価格帯などの観点から詳しく解説いたします。それぞれの特徴やメリット・デメリットを理解することで、あなたに最適な補聴器選びのお手伝いができれば幸いです。
1.装用方法による分類①:小型耳かけ型補聴器(RIC)

小型耳かけ型補聴器の基本的な構造と特徴
小型耳かけ型補聴器(RIC※1)は、比較的新しいタイプで、後述する耳かけ型と耳あな型の利点を組み合わせた設計となっています。本体は耳の後ろにかけますが、レシーバー(スピーカー)部分は耳の穴に直接挿入されます。
この設計により、本体を小型化しつつ、より自然な音質を実現できます。また、レシーバー部分が交換可能な構造になっているため、聞こえの変化に応じて出力を調整することも可能です。
RIC型補聴器の最大の特徴は、音の伝達経路が短いことです。従来の耳かけ型ではチューブを通じて音を伝えていましたが、RIC型では直接耳の中で音を発生させるため、音質の劣化が少なく、よりクリアな聞こえを実現できます。
また、開放型装用※2が可能なため、自分の声が「こもって」聞こえる感覚(閉塞感)を軽減できます。
※1……Receiver In Canal:レシーバーインカナル
※2……開放型装用(オープンフィッティング):耳の穴を完全に塞がず、自然な音も同時に聞こえる装用方法

小型耳かけ型補聴器のメリットとデメリット
【メリット】
- 小型で目立ちにくい
- 自然な音質
- 閉塞感が少ない
- レシーバーが交換可能
- 幅広い聞こえのレベルに対応
【デメリット】
- メガネやマスクとの併用で耳にかかる負担が大きくなりやすく、着脱時に補聴器が外れてしまうこともある
- レシーバー部分が故障しやすい場合がある
- 耳垢の影響を受けやすい
- 価格がやや高い
- 細かい部品の取り扱いが必要
2.装用方法による分類②:耳かけ型補聴器(BTE)

耳かけ型補聴器の基本的な構造と特徴
耳かけ型補聴器(BTE:Behind The Ear)は、補聴器本体を耳の後ろにかけて装用するタイプです。本体から伸びるチューブを通じて、耳の穴に挿入するイヤモールド※3やイヤチップから音を届けます。
このタイプの最大の特徴は、比較的大きなスペースを確保できることです。そのため、強力なアンプ(増幅器)や大容量バッテリーを搭載することが可能で、難聴が高度から重度の方の場合、出力の高い耳かけ型補聴器が必要になることもあります。また、操作ボタンやボリューム調整が大きく作られているため、手先の細かい動作が苦手な方でも扱いやすいという利点があります。
※3……イヤモールド(耳型):個人の耳の形に合わせて作られる耳せん
耳かけ型補聴器のメリットとデメリット
【メリット】
- 幅広い聞こえのレベルに対応可能(軽度から重度まで)
- バッテリー寿命が長い(通常5~14日程度)
- 操作が簡単で、ボタンが大きく押しやすい
- 修理やメンテナンスが比較的容易
- コストパフォーマンスが良い
【デメリット】
- 外見上、補聴器が目立ちやすい
- メガネやマスクとの併用で耳にかかる負担が大きくなりやすく、着脱時に補聴器が外れてしまうこともある
- 激しい運動時にずれやすい
- 電話使用時にハウリング※4が起こりやすい
※4……ハウリング(音響フィードバック):マイクとスピーカーの間で音が循環して発生する「ピー」という音。耳せんの形状で対策可能
耳かけ型補聴器が適している方

耳かけ型補聴器は、以下のような方にオススメです。
- 中等度から重度の難聴をお持ちの方
- 手先の器用さに不安がある方
- コストを抑えたい方
- 長時間の装用を予定している方
- 初めて補聴器を使用される方
3.装用方法による分類③:耳あな型補聴器(ITE・ITC・CIC)

耳あな型補聴器の基本的な構造と特徴
耳あな型補聴器は、耳の穴の中に収まるように設計された補聴器です。サイズによって、さらに細かく分類されます。
① ITE(In The Ear):耳の穴全体を覆う大きめのタイプ
比較的大きなスペースを確保できるため、さまざまな機能を搭載できます。操作ボタンやボリューム調整も可能で、中等度から高度難聴の方にも対応できます。
② ITC(In The Canal):耳の穴の入り口付近に収まる中間サイズ
見た目と機能性のバランスが取れたタイプです。軽度から中等度難聴の方に適しており、日常的な使用において十分な性能を発揮します。
③ CIC(Completely In Canal):耳の穴の奥深くに挿入する最小サイズ
最も小さく、外見上ほとんど見えません。しかし、サイズの制約により、軽度から軽中等度難聴の方に適用が限られます。
3種類すべて、使用者の耳の型を取って個別に製作されるオーダーメイド製品です。そのため、装着感が良く、外見上も目立ちにくいという特徴があります。
耳あな型補聴器のメリットとデメリット

【メリット】
- メガネやマスクと干渉しない
- 外見上目立ちにくい(特にCIC)
- 耳の自然な音響特性を活用できる
- 風の音の影響を受けにくい
- 電話使用時の利便性が高い
【デメリット】
- バッテリーサイズが小さく、交換頻度が高い(3~7日程度)
- 小さなボタンで操作が困難な場合がある
- 耳垢や湿気の影響を受けやすい
- 修理時に時間がかかる場合がある
- 価格が比較的高い
耳あな型補聴器が適している方
耳あな型補聴器は、以下のような方にオススメです。
① ITE(In The Ear):耳の穴全体を覆う大きめのタイプ

- 中等度から高度難聴の方
- 操作ボタンを使いたい方(ボリューム調整など)
- 目立ちにくさと機能性の両方を求める方
- メガネを常用している方
- 手先の器用さにある程度自信がある方
- 耳垢が少なめの方
② ITC(In The Canal):耳の穴の入り口付近に収まる中間サイズ

- 軽度から中等度難聴の方
- 見た目を重視したい方
- 日常的な会話が中心の方
- メガネとの干渉を避けたい方
- 電話をよく使う方
- 風の音を避けたい環境にいる方
③ CIC(Completely In Canal):耳の穴の奥深くに挿入する最小サイズ軽度から軽中等度難聴の方

- 補聴器を着けていることを知られたくない方
- 若い世代の方
- 営業や接客など人と接する仕事をしている方
- スポーツを頻繁に行う方
- 帽子やヘルメットを頻繁に着用する方
4.機能とコストによる分類:エントリーからプレミアムまで
エントリーモデル(基本機能モデル)
価格帯:約5万円~15万円(片耳)
基本的な増幅機能に特化したモデルです。デジタル処理による雑音抑制機能※5や音質調整機能を備えていますが、高度な自動調整機能は限定的です。
※5……雑音抑制機能(ノイズリダクション機能):背景雑音を自動的に軽減する機能
エントリーモデル(基本機能モデル)が適している方
- 予算を抑えたい方
- 静かな環境での使用が中心の方
- シンプルな操作を希望する方

スタンダードモデル(標準機能モデル)
価格帯:約15万円~30万円(片耳)
エントリーモデルの機能に加えて、指向性マイク※6や複数の環境プログラム自動切り替え機能を搭載しています。日常生活のさまざまな場面に対応できる性能を備えています。
※6……指向性マイク:方向性を持つマイク。特定の方向からの音を強調して集音する
スタンダードモデル(標準機能モデル)が適している方
- バランスの取れた性能を求める方
- 外出する機会が多い方
- ある程度の高機能を希望される方

プレミアムモデル(高機能モデル)
価格帯:約30万円~60万円(片耳)
最新の技術を搭載した最高峰モデルです。AI(人工知能)による自動環境認識、高度な雑音抑制、両耳間通信機能など、あらゆる場面で最適な聞こえをサポートします。
プレミアムモデル(高機能モデル)が適している方
- 最高の音質を求める方
- アクティブなライフスタイルの方
- 最新技術に興味がある方

まとめ:あなたに最適な補聴器を見つけるために

補聴器の種類と特徴について詳しく見てきましたが、最も重要なのは「あなたの生活に最適な補聴器を見つける」ことです。価格や見た目だけでなく、聞こえの程度、ライフスタイル、操作性、将来的な聞こえの変化なども考慮して選択することが大切です。
特に高齢の方の場合、補聴器の操作性や日常的な管理のしやすさも重要な選択基準となります。小さなボタンでの操作が困難な場合は、より大きなボタンを備えたモデルや、自動調整機能が充実したモデルを選択することをオススメします。
現在の補聴器技術は大幅に進歩しており、多くの方にとって満足できる聞こえの改善が期待できます。しかし、その豊富な選択肢の中から最適なものを選ぶためには、専門家のアドバイスが不可欠です。
補聴器販売店では、詳細な聞こえの測定、カウンセリング、試聴サービスを提供しており、あなたに最適な補聴器を提案してくれます。まずは相談から始めて、新しい聞こえの世界への第一歩を踏み出してください。
執筆
聞こえと暮らし研究所 編集部
聞こえや難聴に関する正しい理解を広めるとともに、補聴器をはじめとする聴覚ケアの最新情報や、快適な聞こえを支える工夫を発信しています。日々の暮らしに寄り添う情報提供を通じて、聞こえに悩む方々の生活の質(QOL)向上に貢献していきます。
執筆協力
横井 孝治
介護アドバイザー。All About【介護】ガイド。
長期にわたる両親の介護を通して身につけた有益な介護情報を発信・共有するため、2006年に株式会社コミュニケーターを設立。2007年に介護家族や介護予備軍向けの情報サイト「親ケア.com」をオープン。800回を超える講演活動のほか、各種メディアにも数多く登場。YouTube「親ケア.com【公式】チャンネル」は、登録者数2.9万人以上。
監修
小島 敬史
現国立病院機構栃木医療センター耳鼻咽喉科医長。
全例で補聴器適合検査を行い、補聴器の処方についても自ら特性図・適合検査結果を確認、調整の指示を行っている。
【略歴】
2006年、慶應義塾大学医学部卒。臨床研修修了後、2008年より同大学耳鼻咽喉科学教室へ所属。日本耳鼻咽喉科学会専門医、指導医取得。耳科、聴覚を専門とし、臨床研究や基礎研究に従事する。2018年から2020年、米国ノースウェスタン大学耳鼻咽喉科頭頸部外科でポストドクトラルフェローとして先天性難聴の蛋白機能解析に関する基礎研究に従事。2013年慶応義塾大学病院耳鼻咽喉科で難聴・耳鳴外来を担当。宇都宮方式での補聴器処方を学ぶ。