聴こえ8030運動とは?将来の難聴を防ぐために今できること

難聴

「最近、聞き返しが増えた」「会話が聞き取りづらい」と感じつつも、年齢のせいだと見過ごしていませんか。

実は聴力は30歳頃から徐々に低下し始め、気づかないうちに難聴が進行してしまうことがあります。さらに、難聴は生活の質を下げるだけでなく、認知症リスクと関わることもわかってきています。

この記事では、将来の難聴予防につながる「聴こえ8030運動」の概要と、難聴の予防方法、補聴器や人工内耳といった対策まで、わかりやすく紹介します。少しでも聞こえに不安がある方や、将来の耳の健康を守りたい方は、ぜひこの記事を参考にして今日からできる聴覚ケアを始めてみてください。

将来の難聴に関わる「聴こえ8030運動」とは?

「聴こえ8030運動」とは、80歳で30dB程度の(補聴器装用を含めた)聞こえを保つことを目標に、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が提唱している国民啓発運動です。歯の健康を守る「8020運動(80歳で20本の歯を保つ)」の耳版とも言える取り組みで、特に近年は若い世代からの参加が強く呼びかけられています。

人間は誰しも年齢を重ねるにつれて、少しずつ聴力が低下していきます。これを加齢性難聴と呼び、完全に避けることはできません。しかし、生活習慣や聴覚ケアを意識することで、その進行をできるだけ抑えることは可能だと考えられています。

80歳で30dBの聴力を維持できれば、日常会話はもちろん、家族や友人とのコミュニケーション、音楽鑑賞なども楽しみながら、生活の質(QOL)を保てると言われています。聴力の低下は30歳頃から徐々に始まるため、「まだ若いから大丈夫」と思わず、早い段階から耳の健康を意識することが重要です。少しでも聞こえにくさを感じたら、早めに耳鼻咽喉科で聴力検査を受けることが推奨されています。

dB(デシベル)の定義と生活音

dB(デシベル)とは、音の大きさを数値で表した尺度です。日常生活には、さまざまな大きさの音が存在しています。

音の大きさ 生活音の例
30dB ささやき声
50dB 雨音
60dB 日常会話
70dB 掃除機、洗濯機
80dB 地下鉄の車内、ゲームセンター
90dB カラオケ、バイク
100dB 工事用の重機
120dB 救急車のサイレン

「30dBの聴力がある」ということは、ささやき声まで聞き取れる聴力を持っている状態を指します。この数値が大きくなるほど、聞こえるために必要な音が大きくなり、難聴の程度が重いことを意味します。

耳の健康維持が注目されている理由

耳の健康維持が注目されている背景には、加齢性難聴の予防が認知症対策として重要だと考えられていることが挙げられます。

日本人の平均寿命は、20年前と比べて約3歳伸びています。しかし一方で、健康寿命(介護を受けず自立して生活できる期間)は、平均寿命との差がなかなか縮まっていません。その主な要因の一つが認知症です。

近年の研究では、加齢による難聴を放置することが認知症のリスクを高めること、そして補聴器の装用などによって難聴の対策を行うことが認知症リスクが軽減されること可能性が示されています。聞こえにくさを放置すると、脳への音の刺激が減り、認知機能の低下を招くと考えられています。

さらに、難聴は認知症だけでなく、日常生活にもさまざまな影響を及ぼすため注意が必要です。車のクラクションや警報音に気づきにくくなることで危険察知が遅れたり、会話が億劫になって社会参加が減少したりすることもあります。その結果、孤立やうつ病の発症につながる可能性も指摘されています。

だからこそ、若い世代のうちから聴覚ケアを意識し、耳の健康寿命を延ばすことが重要なのです。

もしかして難聴?早めに気づくためのチェックポイント

難聴は、気づかないうちに少しずつ進行することが多く、本人が自覚しにくいのが特徴です。日常生活の中には早期発見につながるサインやリスク因子が数多く存在します。

難聴の前兆・初期症状

「初対面の人との会話で聞き取れず困る」「家族や職場の人の話が聞こえにくくイライラする」といった経験はありませんか。特に、職場やレストラン、スーパーマーケットなど周囲に雑音がある環境で聞き取りづらいと感じる場合は、難聴の初期症状であることが少なくありません。

さらに、会話そのものを避けるようになり、私生活や社会活動が以前より制限されている場合は、難聴が日常生活に影響を及ぼしている可能性があります。こうした状態を放置すると、コミュニケーションへの不安やストレスが増え、生活の質の低下につながる可能性があります。

また、テレビやラジオの音量を以前より大きくしてしまうことも、聞こえにくさのサインの一つです。

難聴のリスク因子

難聴には、発症や進行を高めるさまざまなリスク因子があります。以下の項目に当てはまる場合、聴力低下が起こりやすくなるため注意が必要です。

● 中耳炎や髄膜炎の既往歴

過去に中耳炎や髄膜炎を経験している場合、炎症の影響で内耳や聴神経にダメージが残り、年齢に比較し難聴が進みやすくなることがあります。

※髄膜炎…脳と脊髄を覆う髄膜に細菌やウイルスなどが感染して炎症が生じる病気。

● 耳硬化症

耳小骨の一部が硬く変性し、振動を伝えにくくなり、外から入ってきた音の振動が脳へうまく伝わらなくなる病気です。徐々に聴力が悪化していきます。

● 喫煙歴

喫煙は血流を悪化させ、内耳(耳の最も奥にある器官)の細胞に十分な酸素や栄養が届きにくくなり、聴力低下の原因となる可能性があります。

● 60歳以上

加齢に伴い、誰でも少しずつ聴力は低下します。進みやすさには個人差が大きいです。特に加齢に伴う難聴は高音域から聞こえにくくなるのが特徴です。

● 騒音にさらされる習慣

仕事や趣味などで大きな音に長期間さらされていると、内耳が障害され、難聴が進行しやすくなります。

● 耳毒性製剤の使用歴・頭部の打撲歴

一部の薬剤や強い頭部の打撲は、内耳や聴神経に影響を及ぼすことがあります。

● 栄養の偏り

栄養不足や偏った食生活は、耳の神経や血管の健康を損ない、難聴の進行を助長する要因となる可能性があります。

これらの項目にいくつか心当たりがある場合は、早めに耳鼻咽喉科で相談し、聴力検査を受けることをおすすめします。

日常生活でできる難聴の予防習慣

難聴は加齢だけでなく、日常生活の習慣によっても進行の度合いが大きく左右されます。ここでは、日常生活で実践しやすい難聴を予防するための生活習慣について解説します。

禁煙する

喫煙は、難聴の大きなリスク因子の一つです。タバコに含まれる有害物質は血管を収縮させ、内耳への血流を悪化させます。内耳の血流悪化が続くと聴力低下につながる可能性があります。

禁煙は比較的早い段階から効果が現れるとも言われているため、年齢に関係なく今すぐやめることが大切です。将来の聴力を守るためにも、禁煙は最優先で取り組みたい予防習慣です。

糖尿病の予防・治療をする

糖尿病は、血糖値の上昇によって血管や神経にダメージを与える病気であり、難聴のリスクを大きく高めることが知られています。糖尿病によって内耳の血管が障害されると、音を感じ取る細胞の働きが低下しやすくなります。

糖尿病の予防には、食生活の改善や運動習慣が欠かせません。また、すでに糖尿病と診断されている場合は、医師の指示に従いながら適切な治療を継続することが重要です。

近年では、経口糖尿病治療薬であるメトホルミンの累積使用期間が長いほど、難聴リスクが低下する報告もあり、血糖コントロールが耳の健康にも良い影響を与える可能性が示唆されています。

適度な運動習慣をつける

運動を習慣にすることは、難聴予防においても欠かせません。ウォーキングや軽いジョギング、体操などの有酸素運動は、全身の血流を改善し、内耳への酸素や栄養の供給を助けます。また、運動は生活習慣病の予防にもつながるため、結果的に難聴リスクを下げる効果が期待できます。

暴飲暴食を防止する

食べ過ぎや飲み過ぎは、難聴の進行にも影響するため注意が必要です。カロリー摂取量が多いほど、肥満や脂質異常症、動脈硬化を引き起こしやすくなります。

動脈硬化が進むと、内耳の血管にも影響が及び、聴力低下を招く可能性があります。暴飲暴食を控えることは耳の健康だけでなく全身の健康維持にもつながるため、毎日の食事で食べ過ぎや栄養の偏りを意識的に避けることが重要です。

騒音環境を避ける

大きな音に長時間さらされることは、難聴の大きな原因になります。仕事や趣味で騒音環境にいる時間が多い場合、知らないうちに聴力が低下していることも少なくありません。

成人の場合、例えば80dBの音なら週40時間程度まで、90dBの音なら週4時間程度までが安全な聴取時間と示されています。これ以上に大きな音を聞き続けると、難聴のリスクが高まるとされています。工事音や音楽プレーヤーの大音量使用など、日常生活にも注意が必要です。可能な限り騒音を避け、必要に応じて耳栓や防音対策を取り入れることが、将来の聴力を守ります。

難聴の進行予防には聴力の管理も重要

難聴の進行を防ぐためには、日常生活での予防習慣に加えて、自分の聴力を正しく把握し、継続的に管理することが重要です。定期的に聴力検査を受けて聴力を知ることで、現在の難聴レベルや変化に早く気づくことができます。

最近では、スマートフォンで聴力を管理できるアプリも登場しており、手軽に活用できる点が魅力です。アプリを利用すれば、聴力の変化をグラフなどで見える化できるだけでなく、年代別の平均聴力との比較もできます。こうしたツールを上手に取り入れることで、早期対応につなげやすくなります。

補聴器を検討する場合の流れ

日常生活の中で30dB程度の音(ささやき声など)が聞こえにくいと感じる場合は、早めに補聴器の検討を始めることが大切です。補聴器を使用して30dBの音が聞こえるようになれば、会話や社会活動がしやすくなり、生活の質を維持しやすくなります。

なお「親にどうやって補聴器を勧めたらよいかわからない」という方に向けて、親への補聴器の勧め方について紹介している記事もありますので、こちらもあわせて参考にしてみてください。

【関連情報】
親の難聴に気づいたときの対応〜聞こえづらさを放置しないために

①補聴器の必要性を判断する

まずは耳鼻咽喉科を受診し、聴力検査を行ったうえで、補聴器が必要かどうか判断します。

この際、補聴器相談医に相談することがおすすめです。補聴器を使い始める適切なタイミングや、生活状況に合わせた具体的なアドバイスを受けることができます。また、難聴と診断された場合には、医療費控除の申請に必要な診療情報提供書を作成してもらえることもあります。

②補聴器を選定する

補聴器が必要と判断された場合は、使用目的や操作性などを考慮しながら機種を選定します。専門家から取り扱いや普段のお手入れなどについても説明を受けます。

③アフターケアを受ける

補聴器は購入して終わりではなく、使用者の聴力や生活環境に合わせて定期的なアフターケアが欠かせません。補聴器相談医や言語聴覚士、認定補聴器技能者などによる調整やアドバイスを受けることで、聞こえの改善を実感しやすくなります。

また、補聴器聴覚リハビリテーションを受けることも重要です。補聴器の音に慣れ、言葉を正しく聞き取り、理解できるようになることを目的に行われます。言語聴覚士による文章の追唱訓練などを通じて、補聴器を無理なく使いこなせるよう支援していきます。

難聴には人工内耳の選択肢も

補聴器を使用しても十分な聞こえの改善が得られない場合、「人工内耳」という選択肢があります。人工内耳は、手術によって耳の奥に埋め込む体内装置と、耳にかける、もしくは側頭部に取り付ける体外装置から構成される医療機器です。
体外装置のマイクで拾った音は電気信号に変換され、体内装置へ送られます。その電気信号が蝸牛内に埋め込まれた電極を通じ内耳の神経節を刺激し、聴神経を伝わって脳で音として認識される仕組みです。

人工内耳は先天性難聴のような小児で主に導入されるというイメージがあるかもしれませんが、成人の難聴であっても状態によっては適応となる場合があります。

ただし、人工内耳の手術は誰でも受けられるわけではありません。成人の場合、人工内耳の適応となるのは、自身の耳ではほとんど音を認識できない方や、補聴器を装用しても言葉の聞き取りが難しい方です。

人工内耳は、難聴の程度や補聴器装用時の効果などに基づき、保険適用の基準が定められています。また、手術後には音に慣れ、言葉を正しく理解できるようになるための継続的なリハビリテーションが欠かせません。医師と十分に相談しながら、慎重に検討することが重要です。

まとめ:聴こえ8030運動が示す難聴予防の重要性

本記事では、80歳で30dBの聴力維持を目指す「聴こえ8030運動」について紹介しました。難聴は30歳頃から徐々に進行するため、若いうちから予防習慣を取り入れ、聞こえにくさを感じたら早めに耳鼻咽喉科で検査を受けることが大切です。

さらに、聴力検査やアプリによる管理で変化を把握し、必要に応じて補聴器などの選択肢を検討することで、生活の質を維持しやすくなります。毎日の小さな積み重ねが、将来の耳の健康寿命を延ばすことにつながります。

執筆

聞こえと暮らし研究所 編集部

聞こえや難聴に関する正しい理解を広めるとともに、補聴器をはじめとする聴覚ケアの最新情報や、快適な聞こえを支える工夫を発信しています。日々の暮らしに寄り添う情報提供を通じて、聞こえに悩む方々の生活の質(QOL)向上に貢献していきます。

監修

小島 敬史

現国立病院機構栃木医療センター耳鼻咽喉科医長。
全例で補聴器適合検査を行い、補聴器の処方についても自ら特性図・適合検査結果を確認、調整の指示を行っている。

【略歴】
2006年、慶應義塾大学医学部卒。臨床研修修了後、2008年より同大学耳鼻咽喉科学教室へ所属。日本耳鼻咽喉科学会専門医、指導医取得。耳科、聴覚を専門とし、臨床研究や基礎研究に従事する。2018年から2020年、米国ノースウェスタン大学耳鼻咽喉科頭頸部外科でポストドクトラルフェローとして先天性難聴の蛋白機能解析に関する基礎研究に従事。2013年慶応義塾大学病院耳鼻咽喉科で難聴・耳鳴外来を担当。宇都宮方式での補聴器処方を学ぶ。

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